イスラエルの作家で心理学の教授のSam Vaknin氏の自己愛性パーソナリティ障害のShared Fantasy(共有幻想)という考え方も自己愛性パーソナリティ障害を理解する上で参考になります。23年間に1500人の自己愛性パーソナリティ障害の事例を勉強し、彼自身も自己愛性パーソナリティ障害だと主張しています。
”自己愛性パーソナリティ障害は幼少期のトラウマ体験によって無意識的に母親という存在を求めている”
彼の理論は精神分析に由来しており、基本的なところから説明すると・・・
イギリスの精神分析家・小児科医のWinicott(ウィニコット)は子どもは生まれてすぐは外の世界や母親が自分と違う存在だと認識できないと考えました。赤ちゃんはお腹が空けば泣いて飲ませてもらい、オムツが濡れたら泣いて替えてもらいます。それが母親という他者がやってくれているということに気づいていません。時にはおっぱいをあげるのが遅くなってしまったり、オムツを替えるのに時間がかかってしまったり思い通りにならないことが起こります。次第に自分の欲求は100%思い通りに叶えられるものではなく、母親は別の存在でそこそこ仕事をこなしてくれるが完璧な存在ではないということを学ぶわけです。母親という他者と自分という違いを知り、一人の個として自立した大人になっていくというプロセスを経ていくのが正常な成長過程です。
しかし、自己愛性パーソナリティ障害は虐待やネグレクトによってその体験ができていない。本来子どもは幼児期だけでなく学童期、青年期を通じて母親(不在な場合は他の保護者)との心身ともに安心できる情緒的つながりが不可欠です。自己愛性パーソナリティ障害と母親との関係ではそれがなかった。心身共に母親が必要な時に母親が不在だったために健康な自我が形成されなかった説をSam Vankin氏は強調しているわけです。
そのため自己愛性パーソナリティ障害はパートナーに母親と子どものような役割を求める。誇大な態度と幼稚な振る舞いを許してもらえる関係。Love Bombing(愛の爆弾)段階において自己愛性パーソナリティ障害は嘘をつき、Future Faking(叶えられることのない約束)をしてパートナーを確保する。Shared Fantasy(共有幻想)の世界に招きいれるためにあなたが望む完璧なパートナーを演じる。この段階では頼りがいがあり、賢く、守ってくれる父親的な役割を演じるというのです。話も丁寧に聞いてくれ、助けてもくれる。あなただけでなくあなたの家族や周りの人たちに対しても尊敬の意を表す。まさに素晴らしくいい人なのです。この段階では。
もちろんそんな完璧な人など存在しません。すべて虚像でこのあとのDevaluation(脱価値化)やDiscard(廃棄)という虐待に耐えてもらうための先行投資だというわけなのです。自己愛性パーソナリティ障害は大人の外見を持った中身は幼稚な子ども。すべてが演技であり、周りからどんなに充実しているように見えても中身は空っぽの底なし沼状態。Sam Vankin氏によると、自己愛性パーソナリティ障害が求めるのは3S(SEX、SUPPLY、SERVICE)のみ。セックス、お金、家事、仕事、常に称賛してくれる人など都合よく動いてくれ、何らかのメリットのある者を利用する。ある程度は意識的にあなたに精神的虐待をしていることをわかっている上で操作する。
あなたが精神的にも身体的にも自己愛性パーソナリティ障害に依存しはじめた途端に役割が変わるのです。頼りがいのある父親からわがままな子どもになり、あなたに母親の役割を押し付ける。あなたの求める大人同士の誠実性や信頼性は得られない。責任を求めると逃げる、怒る、無視する。一度手に入れたあなたは思い通りになる存在で言うことを聞く存在でなければならない。あなたが愛した出会ったころのその人に戻ることはなく、子ども返りはどんどんひどくなる。あなたの役割は欲しがるものを与え、受容することを求められる。さもなければ要らないものとして破棄される。
